OBS Studio最適化完全ガイド:中級者が実践すべき高画質・高フレームレート配信設定
配信者ギアラボの専門ライターがお届けする、OBS Studioの最適化ガイドです。
ゲーム配信の視聴者数を増やし、より質の高い体験を提供するためには、安定した高画質・高フレームレートの配信が不可欠です。しかし、OBS Studioの設定は多岐にわたり、どの項目が配信品質にどのように影響するのか、悩まれる方も少なくありません。特に、現在の配信の音質や画質を向上させたい、配信中の技術トラブルを解決したいといった中級者の皆様に向けて、この記事ではOBS Studioの基本的な設定から、一歩進んだ最適化テクニック、そしてよくあるトラブルシューティングまでを網羅的に解説いたします。
1. なぜOBS Studioの最適化が必要なのか
ゲーム配信において、視聴者の離脱を防ぎ、満足度を高めるためには、映像のクリアさ(画質)と滑らかさ(フレームレート)、そして音声の明瞭さが非常に重要です。OBS Studioは非常に高機能な配信ソフトウェアですが、初期設定のままではPCのスペックを最大限に活かせなかったり、配信サービスの推奨設定に合致していなかったりする場合があります。
適切な設定を行うことで、以下のようなメリットが期待できます。
- 画質の向上: より鮮明で美しいゲーム画面を視聴者に届けられます。
- フレームレートの安定: 動きの激しいゲームでもカクつきや残像感を抑え、滑らかな映像を提供します。
- PC負荷の軽減: 配信中のPCの動作が安定し、ゲームプレイへの影響を最小限に抑えます。
- トラブルの減少: 音飛び、映像のカクつき、エンコーダーの過負荷といった問題の発生を抑制します。
これらの最適化は、視聴者数の増加だけでなく、配信者自身のストレス軽減にも繋がり、より快適な配信活動を実現します。
2. OBS Studio基本設定の見直し
まずは、OBS Studioの最も基本的な設定項目を確認し、配信品質の土台を固めていきましょう。
2.1. 出力設定の最適化
「設定」>「出力」タブに進みます。出力モードを「詳細」に設定することで、より詳細な設定が可能になります。
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エンコーダーの選択:
- NVENC (NVIDIA GPU): NVIDIA製のグラフィックボードを搭載している場合、NVENC H.264 (New) を選択することを強く推奨します。GPUに専用のエンコーダーチップが搭載されており、CPUへの負荷をかけずに高画質なエンコードが可能です。
- AMF (AMD GPU): AMD製のグラフィックボードを搭載している場合、AMF H.264 を選択します。NVENCと同様に、GPUの専用チップを利用します。
- x264 (CPU): 上記のGPUエンコーダーがない場合や、より高品質を追求したい場合に選択します。非常に高い画質を実現できますが、CPUへの負荷が非常に高くなるため、高性能なCPUが必要です。PCのスペックと相談して選択してください。
解説: エンコーダーは、映像データを圧縮・変換する役割を担います。GPUエンコーダーはPCのパフォーマンスへの影響が少なく、多くの配信者にとって最適な選択肢です。
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レート制御:
- CBR (固定ビットレート): 多くの配信サービスで推奨されています。ビットレートが一定に保たれるため、配信が安定しやすい利点があります。
- VBR (可変ビットレート): 映像の動きに応じてビットレートを変化させます。動きが少ないシーンではビットレートを下げ、動きが多いシーンでは上げることができますが、配信が不安定になるリスクもあります。特別な理由がない限り、CBRを選択するのが一般的です。
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ビットレート:
- 画質に直結する非常に重要な設定です。配信サービスの推奨値とご自身のインターネット回線の上り速度に合わせて設定します。
- 一般的に、高画質配信を目指す場合、以下の値が推奨されます。
- 1080p / 60fps: 4,500~6,000 kbps (最大8,000kbps)
- 720p / 60fps: 3,000~4,500 kbps
- 回線速度に不安がある場合や、カクつきが発生する場合は、ビットレートを下げて調整してください。
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キーフレーム間隔:
- 通常は「2」秒に設定します。この値は、映像の完全なフレーム(キーフレーム)がどれくらいの頻度で挿入されるかを示します。多くの配信サービスで2秒が推奨されています。
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プリセット / プロファイル:
- NVENC (NVIDIA GPU)の場合:
- プリセット: 品質(Quality)または最大品質(Max Quality)を選択します。PCのパフォーマンスに余裕があれば最大品質が良いですが、負荷が高い場合は品質に下げて調整します。
- プロファイル: 「high」を選択します。
- x264 (CPU)の場合:
- CPU使用のプリセット: 「veryfast」または「faster」から始め、CPU負荷と画質のバランスを見て調整します。遅いプリセットほど画質は向上しますが、CPU負荷が飛躍的に高まります。
- NVENC (NVIDIA GPU)の場合:
2.2. 映像設定の最適化
「設定」>「映像」タブに進みます。
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基本 (キャンバス) 解像度:
- モニターの解像度に合わせて設定します。通常は「1920x1080」が一般的です。
- 解説: これはOBS上で素材を配置する作業領域の解像度です。
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出力 (スケーリング) 解像度:
- 実際に配信される映像の解像度です。多くの配信サービスでは「1920x1080 (1080p)」または「1280x720 (720p)」が一般的です。
- 回線速度やPCスペックに不安がある場合は、720pに下げることで、配信の安定性を向上させることができます。
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縮小フィルタ:
- 出力解像度が基本解像度よりも低い場合に、映像を縮小する際の品質を決定します。
- Lanczos (ランチョス・シャープネス32のサンプル): 最も高品質ですが、CPU負荷が最も高くなります。
- Bicubic (バイキュービック・シャープネス16のサンプル): Lanczosよりは負荷が低いですが、十分高品質です。
- Bilinear (バイリニア・シャープネス1のサンプル): 最も負荷が低いですが、画質も劣ります。
- PCのスペックに余裕があればLanczosを、負荷が高い場合はBicubicを選択しましょう。
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FPS共通値 (フレームレート):
- 「60」または「30」を選択します。ゲームの滑らかさに直結します。
- 動きの激しいゲームや、視聴者に最高の体験を提供したい場合は「60」fpsを推奨します。PC負荷や回線速度が厳しい場合は「30」fpsに下げて調整してください。
2.3. 音声設定の最適化
「設定」>「音声」タブに進みます。
- サンプリングレート:
- 「48kHz」を選択します。一般的な配信サービスやオーディオインターフェースで推奨される値です。
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チャンネル:
- 「ステレオ」を選択します。より立体感のある音声を届けられます。
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デスクトップ音声 / マイク音声:
- ご使用のデバイスを正しく選択してください。複数のデバイスが表示される場合は、使用していないものを「無効」に設定することで、予期せぬトラブルを防ぐことができます。
3. 高画質・高フレームレートを実現する応用設定
ここからは、さらに高品質な配信を目指すための応用的な設定について解説します。
3.1. NVENCエンコーダーの詳細設定 (NVIDIA GPUユーザー向け)
NVIDIA GPUを使用している場合、「出力」タブのエンコーダーをNVENC H.264 (New) に設定した後、さらに詳細な調整が可能です。
- レート制御: CBR
- ビットレート: 4500~6000 kbps (配信サービスと回線状況に応じて)
- キーフレーム間隔: 2
- プリセット:
- P5:中品質 → 多くのユーザーがバランス良く使える設定です。
- P6:高品質 → GPUに余裕があればこちらを推奨します。画質が向上します。
- P7:最大品質 → 最高画質ですが、GPU負荷が最も高くなります。
- まずはP5で試行し、配信中のGPU使用率(タスクマネージャーやGPU-Zなどで確認)に余裕があればP6、P7へと上げてみてください。
- プロファイル: high
- ルックアヘッド:
- オンにすると、動きの予測精度が向上し、画質が向上する可能性があります。しかし、遅延が増加し、GPU負荷もわずかに上昇します。オフから試すのが無難です。
- 心理視覚チューニング:
- オンにすることで、人間の視覚が認識しやすい部分にビットレートを割り当て、知覚的な画質を向上させます。GPU負荷はわずかに増加します。通常はオンで良いでしょう。
- GPU: 「0」 (ほとんどの場合、プライマリGPUを示します)
- 最大Bフレーム: 「2」 (多くの配信サービスで推奨されています)
3.2. x264エンコーダーの詳細設定 (CPUエンコードユーザー向け)
高性能なCPUを搭載している場合、x264エンコードで非常に高画質な配信が可能です。
- レート制御: CBR
- ビットレート: 4500~6000 kbps
- キーフレーム間隔: 2
- CPU使用のプリセット:
- veryfast: 多くの高性能CPUで安定して動作し、十分な画質を提供します。
- faster: veryfastよりも高画質ですが、CPU負荷がさらに高まります。配信中のゲームプレイに影響が出ないか注意深く監視してください。
- fast: かなりの高性能CPU向けです。
- 解説: プリセットを遅くするほど(例: veryfast → faster → fast)、エンコードにかかる時間は長くなり、CPU負荷は増大しますが、画質は向上します。まずは「veryfast」から始め、CPU使用率が低い(60%以下が目安)場合は一段階下げて(fasterなど)試してみましょう。
- プロファイル: high
- チューン: none (デフォルトで問題ありません)
4. 配信パフォーマンス向上のためのPC負荷軽減策
配信中のカクつきやフレームレートの低下は、PCへの負荷が原因であることがほとんどです。ここでは、OBS StudioとPC全体の負荷を軽減するための対策を解説します。
4.1. OBS Studioのプロセス優先度設定
OBS Studioのプロセス優先度を高く設定することで、PCがOBS Studioに優先的にリソースを割り当てるようになります。
- OBS Studioを起動します。
- Windowsのタスクマネージャーを開きます (Ctrl + Shift + Esc)。
- 「詳細」タブに移動します。
- 「obs64.exe」を探し、右クリックします。
- 「優先度の設定」>「通常以上」または「高」を選択します。
- 注意: 「リアルタイム」はシステム全体が不安定になる可能性があるため推奨されません。まずは「通常以上」から試してください。
4.2. ゲーム内設定の見直し
配信するゲーム自体の設定を調整することも、PC負荷軽減に大きく貢献します。
- グラフィック設定の調整:
- シャドウ、アンチエイリアシング、ポストエフェクト、テクスチャ品質など、負荷の高い項目を一段階下げることを検討してください。
- 可能であれば、ゲーム内のFPSリミッターを設定し、モニターのリフレッシュレートと同じか、少し低い値(例: 60fpsまたは120fps)に制限します。無制限にするとGPUが常に最大負荷で動作し、OBSに割くリソースが不足する場合があります。
- フルスクリーンモードの使用:
- 可能であれば、ゲームをフルスクリーンモードでプレイすることで、ウィンドウモードよりもパフォーマンスが向上する場合があります。
4.3. バックグラウンドプロセスの最適化
配信中に不要なアプリケーションやバックグラウンドプロセスが動作していると、PCのリソースを消費し、OBS Studioやゲームのパフォーマンスに影響を与えます。
- 配信前に、Webブラウザのタブを閉じる、動画編集ソフトを終了する、自動更新を一時停止するなど、不要なアプリケーションを終了させましょう。
- Windowsの「設定」>「プライバシー」>「バックグラウンドアプリ」で、不要なアプリのバックグラウンド実行をオフにすることも有効です。
5. よくあるトラブルとその解決策
配信中に遭遇しがちな技術トラブルと、その具体的な解決策について説明します。
5.1. 映像のカクつきやフレームレートの低下
- 原因: PCのスペック不足、エンコーダーの過負荷、インターネット回線の上り速度不足、OBSの設定ミス。
- 解決策:
- エンコーダーの変更: GPUエンコーダー(NVENC/AMF)を使用しているか確認し、必要であればCPUエンコーダー(x264)に切り替えるか、その逆を試します。
- ビットレートの調整: 現在の回線速度に見合った適切なビットレートに下げてみます。
- 出力解像度・FPSの変更: 1080p/60fpsから720p/60fps、または1080p/30fpsに下げてみてください。
- プリセットの変更: エンコーダーのプリセットをより高速なものに設定します(例: NVENCのP6→P5、x264のfaster→veryfast)。
- ゲーム内設定の調整: ゲームのグラフィック設定を下げ、ゲーム自体の負荷を軽減します。
- OBS Studioの優先度設定: タスクマネージャーでOBS Studioの優先度を「高」に設定します。
- GPUドライバの更新: 最新のグラフィックボードドライバに更新することで、パフォーマンスが改善する場合があります。
5.2. エンコーダーの負荷が高いというメッセージ
- 原因: 設定されたビットレート、解像度、FPS、プリセットなどに対して、PCのエンコード能力が追いついていない状態です。
- 解決策: 「5.1 映像のカクつきやフレームレートの低下」の解決策とほぼ同じです。特に、ビットレートを下げる、出力解像度を下げてスケーリングフィルタを高速なものにする、エンコーダーのプリセットを高速なものに変更する、などを優先的に試してください。
5.3. 音飛びや音声の途切れ
- 原因: サンプリングレートの不一致、バッファリング不足、USBデバイスの帯域不足、オーディオドライバの問題。
- 解決策:
- サンプリングレートの確認: OBSの音声設定と、使用しているオーディオデバイス(マイク、オーディオインターフェース)のサンプリングレートを「48kHz」で統一します。
- 音声バッファリングの調整: 「設定」>「詳細設定」>「全般」にある「音声バッファリング」の値を大きくすることで改善する場合があります。
- USBポートの変更: マイクやオーディオインターフェースを、別のUSBポート(特にPC背面の高速なポート)に差し替えてみます。
- オーディオドライバの更新: オーディオデバイスの最新ドライバをインストールします。
6. プロが意識するさらなる品質向上ポイント
中級者からさらにステップアップし、プロレベルの配信品質を目指す方のために、応用的な知識を共有します。
6.1. 高度な音質設定とノイズ対策
高品質な音声は視聴者体験を大きく左右します。
- OBSの音声フィルタ活用:
- ノイズ抑制: マイクからの環境ノイズを低減します。「RNNoise」または「Speex」を試してみてください。
- ノイズゲート: 設定した音量以下の音をカットし、タイプ音や環境音を拾わないようにします。
- コンプレッサー: 音量の大小を均一化し、聴きやすくします。
- EQ (イコライザー): マイクの音質を調整し、よりクリアな音声を目指します。
- オーディオインターフェースの活用: 外部マイクを使用する場合、高品質なオーディオインターフェースを導入することで、PC内蔵のサウンドチップよりも遥かにクリアで低ノイズな音声入力が可能になります。
6.2. NDIの活用によるPC負荷分散 (複数PC運用の場合)
複数のPCで配信を行っている場合、NDI(Network Device Interface)を使用することで、ゲームPCの負荷を大幅に軽減できます。
- ゲームPC: OBS Studioでゲーム画面をNDI出力します。
- 配信用PC: NDIプラグインを導入したOBS Studioで、ゲームPCからのNDIストリームを受信し、エンコード・配信を行います。
- これにより、ゲームPCはゲームとNDI出力に専念でき、配信用PCがエンコードを担うため、それぞれのPCのパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能になります。
7. まとめ
本記事では、OBS Studioの基本から応用まで、ゲーム配信の画質とフレームレートを最適化するための詳細な設定方法と、よくあるトラブルの解決策を解説いたしました。
ご自身のPCスペック、インターネット回線速度、そして配信するゲームの種類に合わせて、各設定項目を慎重に調整することが重要です。一度設定したら終わりではなく、実際に配信を行いながら、視聴者のフィードバックやPCのパフォーマンスデータを参考に、継続的に改善を重ねていくことが、高品質な配信を実現する鍵となります。
この記事が、皆様の配信活動を次のレベルへと引き上げる一助となれば幸いです。最適な設定を見つけ出し、視聴者を魅了する素晴らしいゲーム配信を楽しんでください。